即位礼正殿の儀 ‐ 一生に一度の経験

写真提供:Kazuhiko Nogi https://www.nytimes.com/2019/10/21/world/asia/japan-emperor-naruhito-royal-family.html

クリスティーン久保田

(2012年度HJJC会頭)

2019年10月22日、世界各地から何百人もの要人たちが東京の皇居に集い、徳仁天皇の即位を正式に宣明する、「即位礼正伝の儀」と呼ばれる厳かで伝統的な儀式が執り行われました。当事務所で取締役を務めるクリスティーン久保田は、ハワイ州知事のデービッド伊芸氏と共に絆グループから推薦を受け、この特別な儀式にハワイ州代表として参列しました。久保田はハワイ日系人商工会議所の元会頭で元年者イベントでは共同議長を務めるなど、コミュニティーへの貢献とそのリーダーシップでよく知られています。

下記は即位礼正伝の儀の参列記です。(こちらはHJCCウェブサイトに掲載された文章を翻訳したものです。)

米国からの日系人代表者と一緒に(写真提供:クリスティーン 久保田)

2019年10月20日、私は(世界各地からの日系人と一緒に)日系米国人を代表する7人のうちの1人として、徳仁天皇の即位の礼、安倍内閣総理大臣主催の晩餐会および、御即位の後の饗宴の儀に参加しました。

アメリカ合衆国からの随行団として、以下の州と地域の代表者が参加しました。ワシントンD.C.よりアイリーン・ヒラノ・イノウエと元米運輸長官のノーマン・ミネタ、カリフォルニアよりトーマス・イイノとカリフォルニア州下院議員のマーク・タカノ、シアトルより元テレビニュース・レポーターのローリー・マツカワの各氏、そしてハワイからはデービッド伊芸知事と私です(写真1)。私たちは東京で、極めて重要な5日間を過ごしました。日本に到着するとすぐに、公益財団法人海外日系人協会主催のレセプションに招待され、そこで世界35ヵ国からの日系の人々と会うことができました。その多くが日本の勲章の受勲者で、昨年ハワイで行われた元年者イベントにも参加された方々でした。主催社側の外務省の方々も数多く参加しておられ、私たちは翌日行われる催しに少々の不安を覚えながら、その夜を過ごしました。レセプションにはアルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、カナダ、チリ、インドネシア、メキシコ、ウルグアイ、パラオ、パラグアイ、フィリピンとアメリカ合衆国からの日系人が参加していたため、スピーチは日本語、英語、スペイン語、ポルトガル語で行われました。

即位礼正殿の儀は皇居で挙行される最も神聖な儀式。男性はモーニング姿、女性はロングドレスで参加しました(写真2)。

私たち一行は「石橋(しゃっきょう)の間」(応接間)に案内され、プログラムの開始まで、1時間ほど待ちました。天皇皇后両陛下がお出ましになり、正殿に位置する高御座(たかみくら)-天皇の玉座と、御帳台(みちょうだい)-皇后陛下の御座に昇られるのを待ちました。皇居は広大な中庭を囲むような長方形の建物で、それを時計に見立てて正殿の間を12時の位置とすると、私たちがの部屋は斜め向かいの午後4時から5時くらいの場所にあり、元総理大臣の方々や、女王、王をはじめ各国の要人が次々と到着し、大広間や応接間、長和殿のロビー(8時から5時)に着席されるのが見えました。3時の位置にある豊明殿には、雅楽師の方々がおられました。

即位礼正伝の儀が行われる日の朝に(写真提供:クリスティーン久保田)

石橋の間に集った人々(写真提供:クリスティーン久保田)

石橋の間に並べられた椅子(写真提供:クリスティーン久保田)

私たちの部屋には約250人ほどがおり、その他の約2,000人は、正殿の前に広がる庭の周りに分かれて着席しました。時間になると、鈴の音が皇室の人々の到着を報せ、伝統的な着物(20~30ポンドの重量)に身を包んだ秋篠宮殿下と紀子妃が、皇室の人々とともにゆっくりと入場されました。正殿の間に到着するまでに、5分ほどかかったと思います。その後約10分ほど立ったまま、天皇皇后両陛下が正殿松の間の、京都御所から運ばれてきた最も美しい御座に、後方からお出ましになるのを待っておられました。両方の御座の幕がゆっくりと開けられると、それぞれの御座には、徳仁天皇陛下と雅子皇后陛下が着席しておられご挨拶されました。非常に威厳があり崇高なお姿でした。天皇陛下の「おことば」は、即位の礼は日本国内外に天皇陛下の正式な御即位を宣明するもので、上皇陛下が人々の幸福と世界平和を30年以上にわたって願ってこられたことに言及され、人々の幸福と世界平和を願いつつ、日本国および日本国民統合の象徴としての責任を果たすことを誓われました。力強くも心あたたまるメッセージでした。

安倍首相による「寿詞(よごと)」のあとは、天皇皇后両陛下を祝して万歳三唱を行いました。ハワイではお祝いの席でしばしば万歳をする機会がありますが、諸手を挙げて「天皇陛下万歳」と唱えつつ、私の腕には鳥肌が立っていました。儀式自体は約20分と短いものでしたが、非常に力強く象徴的で世界が見るべきものだと思いました。

晩餐会の会場にて (写真提供:クリスティーン久保田)

次の行事は安倍総理大臣が約900名を招待し開催された晩餐会です。素晴らしい狂言、歌舞伎、文楽の共演を楽しんだ後は、5コースのディナーが振舞われました。この3種類の芸術を同時に目にすることは大変難しく、ほとんど不可能なことなのです。演目は「三番叟(さんばそう)」で、今まで見た中で最も素晴らしい作品でした。文楽人形は3人の人形遣いによって操られ、他の狂言と歌舞伎役者と全く同じ動きを見せ、それに壮大な能の舞が続きました。他に印象に残ったことと言えば、900人のゲストにディナーを給仕する、100人以上の給仕人の一糸乱れぬ動きです。まるでダンスのように優雅で、それぞれのコースは完璧なタイミングで出されました。周りには、総理大臣を始め、様々な大臣や政治家、各国の王子や王女など有名な方が多数おられました。席には名札がありましたので、それぞれの方のお名前を知ることができました。テーブルに来られた河野防衛大臣に挨拶をしたり、バチカンの枢機卿と会話を交わしたり、チャールズ皇太子の写真を撮影したり、バミューダの代表者に挨拶したときには、医師の彼は以前にリリハ・ストリートのセント・フランシス病院でインターンをしたことがあると教えてくれました。世界を見て、世界に出会う最高の機会だったと思います。

写真提供:宮内庁

金曜日には皇居で、即位後の饗宴の儀が行われました。天皇皇后両陛下をはじめ皇室の方々も参加されるフォーマルな昼食会で、約400名が列席しました。再び皇居に戻ってきた私たち。会場の豊明殿には、金色の菊の紋章が散りばめられた黒く輝く漆塗りの椅子がテーブルと共に並んでいました。テーブル上には左手にはお盆、右手には弁当箱が配されていました。お盆の上には違う種類の7種の器が並び、それぞれには柿、寿司、鯛の刺身、アワビと魚の蒸し物などが盛り付けられていました(写真4)。また100人ほどいる給仕人の一人がダンスのように優雅な動きで、菊の紋章の盃に、素晴らしい風味の日本酒を注いでくれました。天皇皇后両陛下と皇族の皆様は上座に着席され、ご一緒に昼食の席を囲むことができました。天皇陛下のご挨拶のあと、安倍首相が祝詞を述べられ、その後、雅楽師による国歌の演奏がありました。

即位礼正伝の儀での徳仁天皇陛下の玉座、高御座

即位礼正伝の儀での雅子皇后陛下の御座、御帳台

天皇皇后両陛下にお会いし、世界各地からの日系の人々と素晴らしいひとときを共有するという、このまたとない機会を得て、心よりハワイの日系アメリカ人社会に感謝しております。私たちはまた横浜のJICA(独立行政法人 国際協力機構)を訪問し、日本から米州各地への移民の背景となった歴史を学びました。彼らの話はそれぞれにたいへん深く意義があるもので、他の人々と共にハワイの日系アメリカ人の代表として日本にいることに誇りを感じました。

2,000人以上による天皇陛下を称える万歳、雅楽師が奏でる日本の国歌(これこそ伝統的な楽器で演奏されるべきものだと思いました)、狂言、歌舞伎と文楽による三番叟、天皇皇后両陛下の気品あふれるお姿と雅子皇后陛下の柔らかな微笑み…、これらすべてが、一生大切にしたい素晴らしい思い出となりました。